耳鼻いんこう科を詳しく知る
歯と鼻の関係は?
松本歯科大学病院は、歯科診療を中心とした病院ですが、歯科と医科の連携医療が実現し、耳鼻科が加わりました。歯と鼻はその解剖学的位置から、非常に密接にかかわりあっております。歯と「副鼻腔」の一つである「上顎洞(じょうがくどう)」は非常に近いため、歯の根っこの炎症や歯周病が上顎洞に波及して、歯が原因の歯性上顎洞炎(蓄膿症)を引き起こすことがあります。
またインプラント治療時には、上顎の形態や鼻や副鼻腔の状態によって、上顎洞炎を起こしやすい患者様がおり、耳鼻咽喉科との連携が必要となります。
当科では内視鏡を使って、鼻の孔の中から副鼻腔炎手術(内視鏡下鼻副鼻腔手術)を行なっております。また鼻中隔が曲がることによって鼻閉が続く症例に対しては鼻中隔矯正術を、アレルギー性鼻炎に対しては CO2レーザーによる鼻甲介焼灼術を行っております。
涙は耳鼻科と関係があるの?
涙道とは涙の流れる道で、下図のように目頭にある涙点から鼻への通路をいいます。
涙はここを通って鼻腔へ流れるのですが、細くなったり、詰まったりすると、いつも涙があふれ出て涙目になります。この状態を涙道閉塞症といい、とくに鼻涙管の部分が詰まった場合は鼻涙管閉塞症と診断されます。
当院では眼科と協力して、涙道内視鏡を使って涙道の状態を診断し、治療いたします。軽症の場合は、涙点よりチューブを挿入(内視鏡下涙道チューブ挿入術)してしばらく留置することで、閉塞部位が開通いたします。ただし重症の鼻涙管閉塞症の場合は、チューブが入らないため、涙嚢と鼻腔 を直接つなぐ新たな涙の通り道をつなぐ涙嚢鼻腔吻合術が必要となります。当科では鼻の中から内視鏡を使って涙嚢鼻腔吻合術(鼻内涙嚢鼻腔吻合術、DCR)を行うため、顔面に傷がつくことはありません。
めまいの原因は?
めまいの中には、脳梗塞などの脳の病気から起こる深刻なものがあります。めまいと共に、顔面や手足が麻痺する、物が二重に見えたり視野が狭くなったり、激しい頭痛がする、ろれつが回らない……などの症状があったら、一刻を争うことがあるので、すぐに救急施設を受診してください。
その他、一部に高血圧や糖尿病、貧血など全身の病気で起きるものもありますが、多くのめまいは、耳の最も奥にある内耳の異常が原因となっております。難聴や耳鳴りを伴うこともありますが、意識を失うことはなく、何とか体を支えられるので、そのまま倒れることはほとんどありません。これらは、一般に耳鼻いんこう科で治療をしております。問診を行い、平衡感覚を見る重心動揺検査や、眼球の揺れ動きを見る眼振検査など専門的な検査を行うこともあります。めまいの頻度や持続時間は、診断のカギになります。
内耳からくるめまいで最も多いのが、良性発作性頭位めまい症です。朝の起き上がりや就寝時に、グルグル回る状態が起きますが、10秒から1分以内で治まります。洗濯物の取り込みなど、頭の位置が変わるような動作でも繰り返してめまいが起こることがあります。内耳には「耳石」と呼ばれる炭酸カルシウムの結晶があり、良性発作性頭位めまい症は、これがはがれて三半規管に移動することで起きるといわれております。このため、理学療法によって体位を変換するような動作を行って、浮遊耳石を追い出す治療が効果的です。日常生活で、下向きの同じ姿勢でパソコンなどに向かい続けるといった動作が原因になることもありますので、予防には集中し過ぎず、時々休憩して頭や体を動かすような運動をすることも大切です。
メニエール病は、回転性のめまいが起き、時として数時間続きます。特に低音部の難聴、耳鳴り、耳が詰まったような感じや吐き気を伴い、発作を繰り返します。内耳の中の内リンパ液が増えて水膨れになって起きると考えられ、めまい止め薬と共に、その水を引く薬などを内服します。睡眠不足などによっても内リンパ液の吸収が悪くなるとされ、十分な睡眠に加え、汗を流すような有酸素運動をして循環を良くすることも効果があります。生真面目な性格の人に多く、ストレスも誘因になります。
前庭神経炎は、ウイルスなどにより片側の内耳の前庭神経に急な炎症が起きているとされ、強い回転性めまい症状が、1日から数日続き、吐き気を伴います。治療は、急性期にはめまい止めや吐気止めを使い、補液をしながら安静を保ちます。前庭神経が障害されても、片側だけであれば、中枢神経の働きによって元の日常生活に戻れますので、症状が軽快した後は、はやめに動いたほうがよいです。
当院では、脳梗塞など脳の中を調べることができるMRIや脳の血管がわかるMRAがあります。それらで異常がある場合は、当院神経内科に依頼いたします。内耳を原因とするめまいは、命に関わるものではありませんが、日常生活の妨げになるので、耳鼻咽喉科を受診してください。十分な睡眠やバランスの良い食事、規則正しい生活と運動、そしてうまくストレスに対処することが、めまい予防には大切です。
出典:『慶應義塾大学病院の医師100人と学ぶ病気の予習帳』、2015年、講談社
耳鳴りは治らないの?
耳鳴りは、外部からの音がないにもかかわらず、耳の中にキーン、ピー、ザー、ジーなどという音が聞こえます。耳鳴りがあって心配で耳鼻科を受診した際に、医師から「耳鳴りは、治りませんから、あきらめてください」「耳鳴りは、慣れるよりしかたがないですよ」といわれたことはありませんか。大変ショックな言葉ですが、必ずしも間違っているわけではありません。耳鳴りは大変治りにくいものです。効果があるといわれているお薬はありますが、どの耳鳴に対してもすぐに治るというようなものは、残念ながらまだありません。
音は、外耳道(耳の穴)→鼓膜→中耳→内耳→聴神経と伝わり、最終的に、大脳の聴覚中枢で、音として感じ取られます。耳鳴は、この音が伝わる経路のどこに異常があっても起こりうると考えられます。つまり、一口に耳鳴といっても、その原因は様々です。聴神経腫瘍や脳の血管の病気が原因でおこっている耳鳴の場合は、MRIの検査などで診断が確定する場合があります。しかし、耳鳴全体のなかで、これらの病気が原因となっているケースは比較的稀です。耳鳴の原因として最も多いとされる内耳の障害は、MRIの検査などでは分かりません。
耳鳴りの大きさや頻度は人それぞれであり、軽度の人はストレスや疲れがたまった時のみ小さな音が現れるのに対し、重度の人は眠れないほどの大きな音が24時間持続していることもあります。
耳鳴りの治療には、TRT(Tinnitus Retraining Therapy)という耳鳴り順応療法があります。TRTは、Jastreboffという人によって始められた治療で、1.カウンセリング と、2.音治療 の二つから成り立っています。TRTでのカウンセリングは、耳鳴に関する理論をよく理解していただくことを目的としたものです。音治療には、サウンドジェネレーターという補聴器に似た器械を使用します。サウンドジェネレーターからは、静かな雑音が出るようになっていて、普段の生活のなかで、この器械をつけて雑音を聞き続けます。
この体験を繰り返すことで、最終的には、常に耳鳴を意識しない、また、耳鳴があってもそれをストレスに感じない状態を習慣づけます。TRTは1~2週間でただちに効果がでるようなものではありません。半年以上の期間、継続して徐々に効果が出てくる治療です。難聴のある方の場合、サウンドジェネレーターではなく、補聴器を使用することで、同じ原理で耳鳴が軽くなることがあります。そのため、難聴のある方には補聴器をお勧めしております。
心理療法 自律訓練法
耳鼻いんこう科では、毎月第1週と第3週の木曜午後から金曜終日に臨床心理士による心理療法をはじめました。
めまい、耳鳴などはストレスと非常に関係があるといわれております。また不眠はそれらの症状を誘発したり悪化させたりします。疾患に対して薬に頼るだけではなく、心のほうからもアプローチすることが、治療効果を高め、再発を防止します。
心理療法をご希望の方は、まず耳鼻咽喉科の外来を受診してください。その後、予約(約45分、保険診療内)いたします。お気軽にご相談ください。
~担当の中井先生より~
みなさん、こんにちは。臨床心理士の中井貴美子です。
日頃は、筑波大学心理相談室や、国土交通省・財務省の相談室、クリニックやメンタルヘルス専門機関で心理カウンセリングを行っています。
専門は認知行動療法です。その中の技法として、自律訓練法専門指導士の資格も取得しています。
自律訓練法はめまいや耳鳴り、高血圧や脱毛症の改善にも効果を示し、世界中で使われている心理療法です。非常に効果の高いリラクセーション法です。
歯科でも治療に恐怖や不安を抱えている子供や患者さんに治療の前に実施している歯科医師もいらっしゃいます。
また、皆様の中に、最近寝つきが悪いとか、夜中に何度も目が覚めるとか、朝早く目が覚めて熟睡できないなどと、不眠で困っている人がいらっしゃいましたら是非ストレスケア相談としてご相談ください。自律訓練法で必ずや楽になることでしょう。
自律訓練法の専門指導士が丁寧に教示しますので、一度習得すれば、様々なストレスに対するセルフケアの一助になることでしょう。ぜひ、一度ご来院いただき、自律訓練法を体験いただければと思います。
自律訓練法だけでなく、通常のカウンセリングもお気軽にご相談ください。みなさんが、心も軽く、毎日を健康に働けるためにお役にたてれば幸いです。
臨床心理士 中井貴美子
鼓膜の穴はふさがらないの?
鼓膜に穴があいても、感染などがないと自然にふさがります。しかし中耳炎を患った人、あるいは外傷をうけた人のなかには、穴があいたままふさがらない人がいます。そうなると、音の振動を鼓膜にうまく伝えることができなくなり、聞こえが悪くなってしまいます。また穴の奥は常に外からの刺激にさらされ炎症をおこし、耳だれがたびたび出たりします。
鼓膜形成術は、聞こえを良くする、あるいは中耳を炎症からまもる目的で、鼓膜の穴をふさぐ手術です。単純な鼓膜穿孔は、自分の組織を使って鼓膜を再建し人工糊ではる手技をおこない、日帰り手術が可能です。ただし耳の骨に異常がある場合や真珠腫の場合は、鼓室形成術となり入院が必要です。
摂食・嚥下障害
当院の摂食嚥下機能リハビリテーションセンターと連携して、摂食嚥下障害の患者様の診断および治療を行っております。
その他
顔面・眼瞼痙攣に対するボトックス注射の治療をおこなっております。
味覚障害の検査が可能です。
外来手術のご案内
鼓膜形成、チュービング、鼻茸、アレルギー性鼻炎レーザー焼灼、先天性耳瘻孔、口唇嚢胞、涙道内視鏡下チューブ挿入、頸部リンパ節摘出などの手術は、局所麻酔で日帰り(希望により1泊入院)手術を行っております。
入院手術のご案内
全身麻酔の場合は、手術前日に入院が必要です。また事前に外来で術前検査を受けていただきます。ラリンゴマイクロサージェリー(声帯ポリープ、喉頭腫瘍検査など)は、手術翌日に退院可能です。内視鏡下副鼻腔手術、鼻中隔矯正術、真珠種性中耳炎、慢性中耳炎手術、涙嚢鼻腔吻合術などは、平均5日間の入院が必要です。(入院期間相談可)