森本 俊文  信州短信(友への手紙)

05.3.24 顎口腔機能制御学講座 教授 森本 俊文

拝啓、元気かい?
 
 ここ信州に来てほぼ3年が過ぎたよ。学生時代によく夏休みに君と登った北アルプスを毎日見ている。こちらに来て分かったのだけれど、北アルプスは冬が一番美しい。早朝、松本の自宅から散歩の時に見る常念岳は、槍や穂高ほど有名ではないかもしれないけれど、切り立っているようにすっきりとした姿を見せている。また通勤途上、奈良井川沿いに見る冬の乗鞍岳は、スイスで見たジルベールホルンのようにすっぽりと銀色の雪で覆われ、その頂が吹き上がる雲でうっすらと覆われているときには、荘厳で神秘的とさえ言えるほどだ。
 
 早春の梓川は、「早春賦」に歌われている景色そのものだ。川面から吹く風は未だ冷たいけれど、土手には草が萌えはじめ、田は未だ冬の眠りにいる。遠くに雪を残す山々が見え、大空には鳥が舞う。4月、大学の桜が美しい。競技場の周りのソメイヨシノは新入生が入る頃、満開になっている。4月末に催される大学の観桜会のころには、校庭の遅咲きの桜が咲き競い、これまで見たことの無い種類のものだが見事だ。緋毛氈のかかった椅子に座って振舞われるお茶を飲むとき、じっと静かな時間が流れる。

 夏、予想外に暑い。ただ朝夕の涼しさで幾分救われるので、散歩が気分の良い季節。安曇野にある温泉で汗を流すのも良い。そういえば、安曇野にはいろいろな美術館や博物館があって楽しいところだ。「いわさきちひろ」美術館もお勧めの一つ。子供が小さかった頃よく歌ってやった童謡集の絵の原画がここにある。

 秋、乗鞍高原が素晴らしい。友人に誘われて野外でのバーべキュウを味わった。白樺の林間を通してみる透明な青空、葉と葉の隙間から漏れてくるきらきらした光、語らうユーモアに富んだ会話、焼き具合を見ながら食べる野菜や肉、すべてが今ここに居ることの幸せを感じさせてくれる。

 ところで肝心の研究の話。大学院が発足して2年がたち、小生の居る総合歯科医学研究所の顎口腔機能制御学部門も機器類が次第に整って、研究がスタートした。研究者も今は数が少ないが気心が知れた人たちが集まっているので、これからが楽しみだ。咀嚼の生理学的研究の継続を目指しているが、これまでの咀嚼運動に関わる神経細胞個々の研究よりも、もう少し個体の行動的な要素を考慮した研究に軸足を移している。幸いなことに大学院生が予想以上に集まり、他の大学からは羨ましがられている。ただ、彼らも臨床研修に忙しいので、十分な研究の時間を確保することが難しいのが今のところ少し頭が痛い。しかし、初めての研究でも皆熱心なのでこちらもやり甲斐がある。これまで、研究指導はこちらがやっていることを見て覚えてくれればいいと思っていたが、今はやはり講義をして納得をしてもらうことが大事だと思っている。2年先には第一期生が大学院の課程を修了するので、学位にふさわしい成果を得てくれることを望んで指導している。

 個人的には相変わらずいろいろな公的機関の委員を引き受け、回数はこれまでより減ったとはいえ、東京にも度々出張している。このようなわけで、君と一緒に仕事をしていた頃と勤務地が変わったとはいえ内容的にはあまり変わらずにやっている。君はどうしている?一度こちらに来ないか?また機会を見て便りをするのでお元気で。

敬具

平成17年3月15日