(2018.03.01) 石原裕一  大学院のすすめ

(2018.03.01) 健康増進口腔科学講座 教授 石原裕一

パソコンでこのコラムを読む人多いと思うので、まずはブログ風味の文章ですがお付き合いください。なお記事は2月中旬執筆

2月の初めに第111回の歯科医師国家試験が終了し、卒業生諸君はさぞほっとしている今日この頃かと思います。そして、1年生から5年生もまた国家試験合格を目標に過密な講義・実習・試験に奮闘しているでしょう。ア―――――――!

日々の課題の多さに将来を考える余裕がないと答える人ほとんどかな。当然です。それが素直な気持ちかもしれません。(*・ω・)(*-ω-)(*・ω・)(*-ω-)ウンウン♪

もしそう思うなら卒業後は大学院に進みましょう。研究者になるつもりはないし、早く歯科医療の知識や技術を身に着けるのに、4年間は時間も学費ももったいない。うーん確かに

文部科学省のHPでの医療系大学院ワーキンググループ報告の中にこう書かれています。聞いたことあるなという人ももう一度読んでね。
 
「医療系大学院は、従来、研究者の養成と学術研究の遂行を主たる目的としていたが、現在における医療系大学院は、これら研究者のみならず、医師・歯科医師など高度の専門性を必要とされる業務に必要な能力と研究マインドを涵養することも求められるなど 医療系大学院が果たすべき機能は多様化している。」

医師・歯科医師など高度の専門性を必要とされる業務に必要な能力 えーそんな能力研究していて本当に養えるの??

とここからは少し真面目に「高度の専門性を必要とされる業務に必要な能力」が研究や実験を通じて、どうやって養われてきたか、または役立ったかについて私の経験も踏まえてお話します。
今ちょうど平昌オリンピックの真っ最中です。実は歯科医師はスポーツでいうところのプレーヤーとジャッジの二面性を発揮しなければなりません。つまりプレーヤーとしては臨床技能として齲蝕や歯石の除去を行い、欠損に対してリハビリテーションを行うということになります。一方、ジャッジとして、患者の病態を把握し、検査を行い、診断をして治療方針の立案および予後の評価をするわけです。もちろん、どんな歯科医師でも患者に嫌われたくはありませんし、ましてや開業歯科医で患者に嫌われれば経営に大打撃です。そうすると患者の気持ち(先生!私は抜歯ぜったい嫌です)や立場(なるべく治療費を安くしてもらえませんか)を優先させているうちに、すこしずつバイアスのない公平なジャッジをできなくなり、患者の希望する治療しか行えない歯科医になることも少なくありません。しかし、安心してください。これから4年間大学院でみっちり研究を行うことにより、実験結果から次の研究の方向性や実験手法を選択するということをいやというほど繰り返し、業務に必要な能力そのⅠ「病態を詳細に観察し、正確な評価ができる能力」が身に付きます。
私の専門である歯科保存学は保存修復学、歯内療法学、歯周病学の3分野から成り立ち、歯および歯周組織を長期的保存できるように、様々な治療を実施する臨床歯科医学の中心的分野です。よく歯科保存学は「歯を残す診療科」なんて言う言われ方もしますが、実際「歯科保存学」は極端な言い方かもしれませんが、私は「抜歯学」ととらえています。多くの患者は歯を長期に保存したいために歯科医院を受診します。しかし、中には誰がどう見ても抜歯しなければならない状況で来院される患者も多いのが現実です。そういった時、どうやって主訴として保存したいと訴える原因歯を抜歯すればいいかということを想像してください。患者は「抜きたくない」歯科医師は「抜きたい、または抜かなければならない」。つまり患者の気持ちや立場は痛いほど理解できるけど、その歯は保存できない。ここでまた大学院で学ぶことによって身に着けられる能力が役立ちます。大学院生として一連の実験が終了し、いざ論文として研究をまとめるということは、ある仮説に基づいて、行った実験結果を様々な角度から分析・検討し、これまでの報告と照らし合わせながら、結論の妥当性をレフリーに証明し、読者にわかりやすい論理の展開を行わなければなりません。私の経験からも、実験を行った順番と論文として結果を見せる順番は変更することがよくあります。さらに、内容をわかりやすくするために図を使うのか表を表すのかなど細かなことまで配慮して論文を仕上げるということは、大学院でしか経験できないことだと思います。つまり話を元に戻しますが、その歯を抜歯しなければならないという結論に対して、最も患者が理解しやすい順番で、いろいろな処置や指導を行い、その処置に対する反応性を論理的に歯科医から説明されれば、患者も気持ちとしては歯を残したくても歯を保存できない現実を受け入れざる負えなくなります。抜歯に限ったことではありませんが、患者とのコミュニケーションをすすめるのにとっても重要な、業務に必要な能力そのⅡ「患者に病態の基づいた論理的でわかりやすい説明ができる能力」が身に付きます。
そして、歯科医学は日々進歩しています。私の学生時代はアマルガム充填が行われており、根管貼薬剤にはホルマリン製剤を使っておりましたが、今はその生体適合性の観点から使用されておりません。また今では当たり前の歯周外科治療として生物製剤を用いる再生療法など私の学生時代はありませんでした。つまり、皆さんは大学を卒業した時の知識はその瞬間から古くなっていくため歯科医師となってからも、常に新しい情報を吸収することを生涯にわたって継続することが重要です。そして、新規の材料や治療法の有効性を業者やメーカーの宣伝に惑わされることなく評価できる資質を持たなければなりません。これは先ほどの業務に必要な能力そのⅡに相反する能力といってもいいかもしれませんが、大学院での4年間を通じて多くの論文を読む中で知らないうちに新たな情報を吸収する能力が備わります。そして、その内容を正確に理解して、その内容の妥当性を評価できる力が備われば、皆さんは10年20年後でも歯科の情報に遅れることなく、日々の日常臨床を行うことができるようになります。すなわち、業務に必要な能力そのⅢ「生涯学習を継続できる能力」が身に付きます。

最後に
どうでしょう?以上3つの業務に必要な能力を身につけられる大学院の4年間に魅力を感じてもらえると嬉しいです。確かに、大学院の4年間は決して楽ではありませんし、どんな指導者につくか、またどんなテーマで研究を進めるかは運が左右します。しかしどんな研究であっても一連の問題解決に向けた手法の違いはありません。私自身、今の臨床、教育、もちろん研究の基盤を作ったのはかけがえのない大学院時代だと信じています。ぜひ皆さんが大学院までを視野に入れて将来を考えてもらえることを願ってこのコラムをおしまいとさせていただきます。最後までつたない文章に付き合っていただきどうもありがとうございました。

Let's go to graduate school Yuichi Ishihara

Let's go to graduate school after graduating from dental university. If you do not intend to become a researcher and feel that you do not have time and tuition for four years to learn dental knowledge and skills as soon as possible. However, in graduate school you can learn the skills necessary for the work required for dentists. By conducting research for the next 4 years, you will select the precise direction and experimental method of the next research from the experiment results, and you will acquired two abilities 1 "Ability to observe the disease condition in detail and make accurate assessment" 2 "Ability to be able to explain patient's pathological conditions logically and easily". Reading many papers throughout the four years in graduate school has the ability to get new information. If you have the ability to understand the contents accurately and evaluate the validity of its contents, you will be able to do daily clinical work without delaying new dental information in the future. 3 "Ability to Continue Lifelong Learning" is acquired. Four years in graduate school is not easy at all. Luck depends on the leader who will be attend to your research and what kind of theme you will engage. However, there is no difference in the method for solving a series of problems in any kind of research. I believe that it is an irreplaceable graduate school era that has created my backbone of the current clinical, educational and research. I would like to end this column as a hope that everyone will be able to consider the future with going to graduate school.