嶋田 勝光  「なぜ?」の魅力

硬組織疾患制御再建学講座・硬組織疾患病態解析学・2016年修了 嶋田 勝光

 私が大学院にて口腔病理学の研究をしようとした最初のきっかけは歯学部5年生のときに遡ります。その時、歯科未来研究会という「学部生の間に研究をしよう」という同好会に入っており、他の基礎講座の研究をしていた友達の手伝いをしていました。友達の研究が終わり、次は自分が研究する年になって、同好会の顧問の先生が退職することになったのです。「自分も何か研究したい」、「この同好会を自分の代で潰すわけにはいかない」と思った私は、これまでの5年間を通じて勉強してきた歯科医学の授業の中で、一番興味をもち面白いと思う科目である口腔病理学を教えて頂いた長谷川博雅教授を訪ねました。長谷川博雅教授は同好会の顧問を快諾してくださり、その当時口腔病理学の領域で疑問に思っている内容の中で、学部5年生の1年間で完結できる研究内容を選択してくださいました。そして、研究を終えスチューデント・クリニシャン・リサーチ・プログラム(SCRP)で発表することができました。その経験が強く心に残り、学部を卒業した後も再び大学院にて口腔病理の研究をしたいと思ったのです。
 その後大学院に入学し、口腔扁平苔癬(OLP)の研究を始めました。OLPは口腔に発症する原因不明の難治性粘膜疾患で、慢性炎症による発赤と角化亢進による白斑が混在し口腔粘膜がレース状を呈するのが特徴です。OLPは一病変内でも多彩な組織像を示し、上皮の傷害、増殖、角化が様々な程度でみられ、4年前の時点では病理学的診断基準もはっきりと決まっていませんでした。私の研究は、この多彩な病理組織像を、免疫組織学的手法を用いて、タンパク質の分布にOLPの規則性を見つけ出す試みです。
 多彩な病理組織像と免疫染色の結果を幾つかの方法で分類し、法則性があると思われる因子を定量化し計測、統計解析しました。その中で、特に角化に関する重要な酵素であるトランスグルタミナーゼ(TGM)については、様々な論文を読み、研究結果に関して先生方と日夜討論しました。その結果、「なぜOLPで角化が生じるか?」の一部を明らかにすることができました。この4年間は研究の大変さと面白さが入り混じった貴重な時間でした。
 そして4年後、長谷川博雅教授が参加されていた日本病理学会での口腔扁平苔癬ワーキンググループにて口腔扁平苔癬の病理学的診断基準ができました。そして、この検討結果と一致する病理組織学的データと、それを裏付ける免疫組織学的データより論文を完成することができました。、先生方と研究した成果が結実したことは、本当に嬉しいという言葉では表せないほどです。
また、大学院4年間の中で、日本病理学会、日本臨床口腔病理学会、先端歯学スクール、そしてTGM研究会に参加し、発表させてもらう機会を頂きました。その中で同じ口腔病理を研究する大学院生だけでなく、他科の大学院生、他学部の大学院生やその分野の大家の先生方と討議し、ご意見も頂きました。これらの機会は知識とモチベーションの向上につながり大変有意義でした。
ところで、私が学部の学生時代や大学院入学時は「学部生の間に何か研究したい」という学生さんは少なかったように思います。しかし、最近の学生さんから「□□についての研究発表をSCRPや〇〇学会でした」といった話をよく聞きます。また、私が昔所属していた「学部生の間に研究しよう」という同好会を再興させたいという意見もありましたし、2年生と3年生で「研究をする授業」が設けられたそうです。既存の授業学習から更なる向上心、リサーチマインドをもった学生さんが増えてきたと感じます。
 日常の勉強、日常の診断や診療の中からでてくる疑問点「なぜ?」は、まだ解明されていないことが数多くあります。それがもしわかったら、自分が得心できる嬉しさとともに、診断や診療の一助となり歯科医療の向上につながる可能性があります。
 学部生で研究したいと思っている学生さんや大学院に入ろうと考えている先生、是非一緒に研究してみませんか?

頬粘膜に発症した口腔扁平苔癬

SCRPでの発表 長谷川博雅教授(写真左)、筆者(写真中央)、落合隆永講師(写真右)