教員コラム 「仮想と現実」

05.9.8 硬組織疾患制御再建学講座 助教授 永澤 栄

 仮想といっても何も夢の中の話ではない、コンピュータの中の話である。もう40年近くの昔になるが、知人の看護婦さんと話をしていて、人間の話になった。当時ガチガチの理科系の学生であった私は「そのうち機械の人間が出来るよ」と言うと、「なんとも味気ないことを考える人だ」とあきれ返られてしまった。今でも人間や生物が特別なものだとは思っていない。
 
 生命体が、他の無機物質と違うのは自己増殖、自己消滅することではないだろうか。しかし、宇宙も自己増殖、自己消滅する。したがって生命体と言える。原子もくっ付いて他の原子に変わり、分裂して又ほかの原子に生まれ変わる。
 
 最近では、原子どころか原子核内の陽子にすら寿命が存在することがわかって来た。そうなると、全部が生命体のような気もする。

 石や、木や、水にも神々が宿っているとした、日本や古代ローマの宗教観が、人間を特別なものとしたキリスト教の世界観よりも、実は正しかったのかもしれない。

 ですから、コンピュータの中に人間が居てもそれほど驚くにはあたらない。その内、この人間は勝手に歩き出すかもしれない。「そんなの仮想の話だろ」と言う人も居るが、そのコンピュータ人間が再生手段を身に着けたらどうだろう。

 動力を身に付けると、同じコンピュータを再生産することも可能となる。同じコンピュータだけでは、いろんな仕事が出来ないから、再生産時には少し違った特性を与えて分業化するだろう。

 記憶を伝えるコンピュータ、エネルギーを蓄積するコンピュータ、資源を採掘するコンピュータ、コンピュータを作るコンピュータ、これ等がどんどん自己再生する。もちろん、古いコンピュータ人間をいつまでもとっておくと、エネルギーと資源の無駄使いだから、彼らも死という概念を組み込むだろう。「まるで人間だね!」そう、彼らは本当に人間なのです。

 彼らは、自分たちのためにエネルギーや資源をみな取ってしまうから、我々の必要性が無くなれば、人は飢えて死ぬしかない。便利になるからといって、コンピュータに自己再生機能を付けた途端、それは人間の破滅を招くことになる。

 でも安心してください、こんなことは起きません。なぜならば、宇宙から、そんなものは地球に来ていないからです。したがって、地球もそのようにはならず、その前にエネルギーや資源が枯渇するのでしょう。

 今、私はマイクロCTを使ってコンピュータの中に歯牙モデルを作っています。「モデルなんか見るだけだろう」と、思うかもしれませんが、私は、コンピュータの中にCT値という物性を持った、歯が存在すると思っています。なぜなら、道具を使ってこの歯を削ることも出来るからです!

 そのうち、削り手の技術が悪くて、窩洞が歯髄にまで達してしまったら、コンピュータが「痛い」と叫ぶかもしれませんよ。

 もう、仮想は現実として、そこに存在していると考えるべきではないでしょうか。