教員コラム 「6自由度」

05.6.22 顎口腔機能制御学講座 教授 山下 秀一郎

 昨今のロボットシステムの研究開発には目を見張るものがあります。現在開催されている愛地球博でも話題にのぼっていますし、NASAが火星探査ロボットを4億8700万キロ離れた火星表面に着陸させるのに成功した話題も記憶に新しいところです。子供の頃にわくわくしながらテレビにかじりついて見ていたサンダーバードの世界が、まさに現実化されたような気がします。当時子供だった我々の世代も中年となり、改めて“もしかして自分が将来やりたかったことはこんなことじゃなかったのかな”と感じておられる方は結構大勢いらっしゃると思います。
 
 改めてこれらの技術に感心させられる点は、起こりうるあらゆる現象を予測し、それらに常に対応できるかたちでプログラミングがなされていることでしょう。まさに、どのような状況におかれても常に姿勢を安定させるためのフィードバック制御系が成せるわざと言えます。私自身も、学生時代にベーシックプログラムに随分とはまった時期がありましたが、そこでもいわゆる「IF・・・THEN」で想定される項目をいかに的確に組み込んでいくかがポイントであり、プログラムを「RUN」させる瞬間はいつも無事に動いてくれることを願っていたように記憶しています。
 
 このように、さまざまな現象を数式として表現し、それをまた別の形式でシミュレートしていく物理学の世界には、大変奥深いものを感じます。“おい、おまえは歯医者なのだから、生物学とか化学が専門ではないのか?”と言われそうですが、“はい、下顎は専門でも化学はどうも・・・”となってしまいます。中学1年生の時にはじめて物理を学んだ際、パチンコ台(当時はまだ手動)で起こる現象は全て数式で表現することが可能であるという授業を受け、子供ながらに試験に受かるためだけに勉強があるのではないということを少しだけ悟った記憶があります。そのあたりから興味の対象が偏ってしまったのでしょうか。

 さて、タイトルにあげた6自由度という言葉ですが、これは、物体の動きを表現するためのパラメータのことを指します。前後、左右、上下、ロール、ピッチ、ヨーの6種類の動きを6自由度といいます。ある物体が空間の中に存在するとき、その重心の位置は、前後、左右、上下で表わされるいわゆるX、Y、Zの座標系で決定されます。さらに、重心を中心として、左右方向への傾きをロール、前後方向への傾きをピッチ、そして左右方向へのひねりをヨーと呼びます。この6自由度の概念を用いることで、物体の動きを点としてではなく、立体の動きとして数値化することが可能となるのです。

 現在私のラボでも6自由度センサーを使用して実験を行っていますが、そのオリジナルは、「アパッチという戦闘ヘリコプター内でパイロットの頭の姿勢をリアルタイムで計測し、その位置角度に合わせてミサイルの弾頭をコントロールする」という目的だそうです。我々はもちろんそんな過激な目的ではなく、下顎の動きを立体的に捉えるために、この技術を応用しています。まさに物理学と歯科医学の融合が、この6自由度の概念から生まれてくるのです。