教員コラム 「臨床と研究」

05.3.1 健康増進口腔科学講座 助教授 穂坂 一夫

 私は大学院では健康増進口腔科学講座の一員でありますが、歯学部では障害者歯科学講座というところに所属しています。この障害者歯科学講座は臨床の講座なので診療科(特殊診療科)があり、私も障害児・者、有病者、高齢者の方々の歯科治療を行なっています。私には、この講座で尊敬している二人の恩師がいます。一人は去年まで障害者歯科学講座の主任を務めておられた笠原浩教授であり、もう一人は故渡辺達夫教授です。笠原先生は「臨床に強い教授」と自称しているくらいなので、例えば講義が始まる前とか会議の前などの、ほんの1時間弱位の時間でも診療を行なっていたことがよくありました。故渡辺先生は、「臨床の講座なんだから臨床に役立つ研究でなければいけない。研究のための研究ではいけない。」とよく口にしていました。このような両先生から指導を受けてきた私ですから臨床を中心に、患者様へすぐに還元できるような研究を心掛けて来ました。
 
 ここで、これまでの私の研究を振り返ってみたいと思います。障害を持っている方では、いろいろ歯科的な特徴や問題点を抱えていることがよくあり、歯科治療にあたっては配慮しなければならない点がしばしば認められます。そこで、私はさまざまな障害の中でも教科書的に歯科的特徴が多いとされているダウン症候群について調査を始めました。まず、齲蝕には罹患しにくいとされていた同症候群の齲蝕罹患状態について調べ、10歳代では低罹患であるが、20歳以上になると他の知的障害者とかわらないことを明らかにしました。続いて、歯周疾患罹患状態についても調べ、同症候群では20歳未満という早い時期から歯周疾患に罹患し、20歳以上で重症化する傾向にあることを明らかにしました。
 
 障害者歯科臨床においては、患者様に対し歯科治療の場にふさわしい行動をコントロールする行動調整も重要な分野です。知的障害者であっても健常者と同様にコミュニケーションを確立したうえで治療を行う必要があります。どのような患者様であっても患者様自身がより楽に歯科治療を受け入れられるようにするべきです。そこで、知的障害者が歯科治療に適応するための要因について調査し、発達年齢3歳10ヵ月以上であれば適応できる可能性が高いことを明らかにしました。このことは、特殊診療科で応用されています。知的障害を持っている患者様の歯科治療に際しては必ず発達年齢を確認して、それぞれの患者様に適した行動調整方法を選択し、患者様に与えるストレスを最小限にするように配慮しております。

 ここ最近の特殊診療科外来には、健康成人であるが歯科治療に対して異常な恐怖を示す歯科恐怖症の患者様が増加しているように思えます。すべての患者様がより快適に楽に歯科治療を受け入れられるようにするための研究を、今後さらに続けて行きたいと思っております。