大学院生コラム 「歯科医師になって思うこと」

硬組織疾患制御再建学講座・硬組織機能解析学・社会人大学院 2011年修了 伊藤 三智子

32年・・・歯科医師として過ごした年月、いつの間にか気が付けば人生の半分以上を歯科医師として過ごしてきたことになる。永かったのか短かったのか分からない、只気が付けば時が過ぎ確実に老いてきた現実がある。

 32年前小児歯科の医局に入局し歯科医師としての第一歩を踏み出した頃、なんの怖さも持たない自信・・無知なるが故の驕り、傲慢、他人から見たら本当に鼻持ちならない若造だったと思う。そして、ほんの少し経験を積み少しの不安を抱きながら卒後2年8ヵ月で開業。良くやったと思う。まだまだ恐れを知らない若さとそれを許してくれる社会の寛容さとニーズがあったからできたことだが、もし仮に今あの当時の自分にあったら思いとどまらせているだろう。只ただ、がむしゃらに走った。患者さんにも、周囲の人々にも厳しく(自分には甘く?)それでも皆ついてきて下さった。本当に恵まれていたと思う。

 そして、結婚・出産・子育てと何とか周囲に助けられ両立してきた。40歳で倒れて3ヵ月の入院を余儀なくされるまで、産休も1ヵ月ととらず良くやってきたと思う。本来ならばここで人生を見直し生活態度を変化させるのがセオリーで有る筈なのに、懲りもせずあいも変わらない生活をしている。その上子供が大学に入ったのをきっかけに自分も大学院に入って忙しさに拍車をかけた。やっと修了しホッとしたところで、心のどこかにポッカリ空洞が出来た様な可笑しな空虚さがある。そして、無意識にこれからやることを模索している自分が居る。優雅な生活をしたいと渇望していた筈なのに、この歳になりほんの少し自分の人生を振り返ってみて、私の人生これで良かったのかな(決して十分な子育てをした訳でも、主婦として立派にやった訳でもないが、自分なりに、自分なりに・・・)と思えるようになってきた。

 人生半ば、振り返ってみて、社会にもそこここ関わりそれなりの人生が送れたのも、歯科医師という職業に巡り会えて精一杯取り組むことが出来た御陰だと思える。本当に歯科医師になって良かったと思っている。患者さんにも「あの先生にあって良かった」と思っていただける様これからも老体に鞭打ち私らしく突き進んでいこうと思っている。

(2011.06.22)


 伊藤三智子先生は、社会人大学院生として「歯ブラシに起因する外傷の実態と歯科医師の認識」という論文で、2010年度に本研究科において博士(臨床歯学)を取得されました。
 伊藤先生は永い臨床経験から歯ブラシ外傷(口腔粘膜への刺入)に関する基礎資料が少ないことに着目して、小児歯科開業医会・小児歯科女医会・東京臨床小児歯科研究会に所属する歯科医師と全国80医科大学の耳鼻咽喉科医局を対象にアンケート調査を行いました。伊藤先生は得られたアンケート回答をさまざまな角度から解析し、歯ブラシ外傷受傷児は2~5歳までが大部分を占め、その多くが「歯ブラシをくわえて転倒」など偶発的に起こることを示しました。そのため、周囲者の注意によって防止が可能であると結論されました。この学位論文は歯ブラシ外傷を予防するための重要な情報を提供しています。
 伊藤先生は社会人大学院生として、働きながらこの研究に打ち込み努力されてこの学位論文をまとめられました。開業されている先生方のうちで、日常診療において「もっと深く調べてみたい」という研究テーマがあるのではないでしょうか。伊藤先生のように社会人大学院生として、そのテーマを追求してみるのはいかがでしょうか。
(研究科長 高橋直之)