2003年、厚生労働省長寿科学総合研究事業の「高齢者の口腔乾燥症と唾液物性に関する研究」によると口渇を自覚している人は、調査対象となった770人中おおよそ200人(約27%)及びます。この原因として加齢、糖尿病、薬の副作用(降圧剤、マイナートランキライザーなど)、ストレスなどが考えられることから、高齢者の増加に伴い口腔乾燥を主訴とする患者さんが増えることが予想されます。口腔乾燥症の患者さんの多くは、しばしば舌痛症や味覚脱失を伴い、口臭、食べ物が飲み込みにくい、話しづらいなどの症状を訴えられます。
これまで、口腔乾燥症に対して様々な治療方法が報告されていますが、必ずしも効果があったとは言えません。また、専門的な治療を行う機関が少なく、どの診療科を受診すべきか、患者さんが迷うケースが多々ありました。
当教室では本年1月から第2、第3金曜日に専門外来として口腔乾燥外来を開設し、3月からは歯科薬理学講座や口腔病理学講座の協力を得て、講座を横断する診断体制を整えました。薬物療法として、これまでの西洋薬(塩酸セビメリン)に加えて漢方薬の単独あるいは併用治療を開始しました(医療タイムス、信濃毎日新聞 2004年4月25日掲載)。従来からシェーグレン症候群に使用されてきた塩酸セビメリンは、唾液腺に存在するムスカリン受容体を介した副交感神経系の刺激によって唾液分泌が促進され、その薬理効果は高いとされます。しかしながら、唾液腺の萎縮が著しい患者さんでは奏功しなかったり、発汗や頻尿などの副作用や虚血性心疾患を有する患者さんには処方できないことから比較的処方に制限が多いことも事実です。一方、漢方薬は、薬効の曖昧さや効果発現までに長期間を要することから、口腔乾燥症の治療薬としては余り認知されていませんでした。しかし、副作用が少ないことや、体質改善を促し生体が持つ回復力や免疫力を高めることから、診断に則した投与方法が確立すれば、口腔乾燥症においてもその適応範囲は拡大するものと考えられます。
口渇感を主訴とする患者さんにおいても、口腔状態の把握は重要です。これによって、evidenceに基づいた治療が可能になるとともに、患者さんの治療に対する理解が得られます。当科ではシェーグレン症候群の診断基準を参考に以下のプロトコールを作成しています。
①口腔内保湿度(写真1)
②唾液分泌量測定(写真2)
③涙液検査(シャーマー試験、写真3)
④血液検査(血液一般、血沈、血液像、CRP、RA、生化学検査、IgG、IgM、抗SS-A抗体、抗SS-B抗体)
⑤口唇腺の生検
これらをもとに、オーラルケアー(不良補綴物の調整、歯石除去、ブラッシング指導、含嗽指導など)を行った後に、塩酸セビメリンや患者さんに適した漢方薬を処方しています。
治療に際して重要なことは、口腔乾燥症とシェーグレン症候群との鑑別、口渇感と唾液流量との相関、加齢に伴う唾液腺組織の萎縮、常用薬による副作用などを総合的に判断することですが、唾液流出量と平滑舌や溝状舌の関連や、唾液流出量と口渇感との相関など、まだまだ未解決な点も数多く残っています。



写真3
専用濾紙を下結膜嚢に5分間挿入し検査を行う





写真8 正常な舌(35才) 写真9 平滑舌 写真10 溝状舌