
本学の創立者・矢ヶ﨑 康博士が、かつてこんな話をされたことがあります。「学校というものは入学生ではなく、卒業生の質で評価すべきものだ。たとえば東京大学のように偏差値ではトップレベルの学生が入学しても、卒業生から汚職官僚や強欲な経営者が輩出するようでは『良い学校』とは言えないだろう。まあまあのレベルの学生を受け入れて、それなりの人間に仕上げることができれば『ふつうの学校』、受験地獄の競争に馴染めなくて、偏差値が低いと馬鹿にされていたような子どもたちでも、本来はだれもが持っている無限の可能性を開花させて、すばらしい社会人として巣立たせるような教育ができたとしたら、それこそが本当の『良い学校』じゃないのかね」。これは「イモ欽トリオ」というアイドル3人組の「良い子、悪い子、ふつうの子」がテレビで人気番組になっていた1980年代での話です。
わが松本歯科大学は創立からすでに38年を経過しました。この3月には第33期生が卒業し、累計では約4千名の歯科医師、千名を超える歯科衛生士、数百名の歯科技工士を社会に送り出しています。それぞれが全国各地で大いに活躍していて、地域の歯科医師会役員、あるいは地方議会の議員などさまざまな要職に就いている人が少なくはありません。本学の教育の基本に据えられている「歯科医療人である前に良き社会人であれ」という教えは、これからもわが国の地域社会を支える柱のひとつであり続けるでしょう。こうした卒業者諸君の活躍こそが本学のなによりもの誇りなのです。
本学のキャンパスは自然環境に恵まれたところです。夏でも白雪がきらめく穂高の峻峰から吹き下ろすさわやかな風のなか、四季の移り変わりにつれてさまざまな花々が目を楽しませてくれます。そうしたなかに世界中のどこの大学にも劣らない充実した施設や設備が整備されていて、最高の学習環境となっています。
学生諸君を指導する教授たちをはじめとする教育スタッフの優秀さも、本学の誇れるもののひとつです。各種の専門学会での高い評価で裏付けられるような優れた学識や研究実績を携えた先生方が、創立者・矢ヶ﨑 康博士の「建学の理念」の下で、歯科医学教育への限りない情熱を持って、日夜学生に接しておられます。
本学の大学院や総合歯科医学研究所からは世界の歯科医学界をリードするような高水準のテーマの研究が次々に生み出されています。そうした知識や技術を学びたいという各国からの留学生も少なくはありません。アメリカ合衆国のインディアナ大学、ロシアの極東医科大学、中国の河北医科大学などの姉妹校をはじめ、ハーバード大学幹細胞研究所など海外の教育・研究機関との提携・協調も、広く積極的に展開しており、世界の歯科医療の最新情報も入手しやすい環境にあります。
さらに、2008年に内科と眼科を加えて新装なった大学病院は、地域の中核的な医療機関のひとつとしての位置づけを確固たるものとしています。ここは臨床実習の場でもあって、学生諸君はインストラクターの下で実際に診療に参加することによって、さまざまな医療技術を身につけるとともに医療における人間性の重要性を体得していきます。
ところで、本学への入学を志願しようとしている諸君に、ぜひとも申し上げておきたいことがあります。それは「みずから学ぶ」ということです。「主導的・積極的な学習態度」を身につけるということです。
諸君はもはやヒヨコではありません。高校以下の初中等教育までの段階ならば、親鳥が口に餌を入れてくれるように教師が知識を詰め込んでくれるのを待っていてもよかったのかも知れませんが、それは専門職をめざす大学生としてはまったく不十分な学習態度です。講義を聴いて丸暗記するなどというのは、受験勉強のためならばともかく、知性を磨き人間性を高めることにはつながりません。なぜならば、大学は単に知識を切り売りする場ではなく、なによりも「自分の頭で考える」人間を育てるところだからです。先生が話すことや書物に記載されている知識を丸呑みにするのではなく、自分の歯で噛み砕いて消化吸収すること、そうすることによって初めて自分の血や肉になるのです。
あらゆることに疑問を持って自分なりに考えてみること、これを「学問する心」と言います。先生方や先輩にどんどん質問してみましょう。そして自分の頭でよく考えてみてください。そうすれば、次の疑問=質問すべきことが見つかるはずです。このような努力を繰り返していくうちに、頭が鍛えられて、本当の知性が身についてくるのです。
そこで本学では、新入学生への教育の第一歩としてそうした「学問する心」を育てることに力をいれていきます。そして、受験地獄のなかでの「勉強はきびしいもの、辛く苦しいもの」といった思い込みから逃れて、「学問することの楽しさ」を見つけ出すことができるように、諸君を支え導いていきます。
このような学習態度が身につきさえすれば、本学のユニークな教育システムが諸君を優れた学識と技量、そして何よりも大切な人間性をも備えた立派な歯科医療人に育て上げることをお約束できます。
ところで、現代の歯科医療は歯科医師過剰による過当競争の時代とも言われています。しかしそうしたなかで、患者さんたちは、医学知識や治療の腕前も評価するでしょうが、「やさしさ」と表現されるような人間性をより強く求めていることを知っておくべきです。患者さんはもとより、地域社会の多くの住民たちからも「リーダー」として厚く信頼され、感謝されている本学卒業生の活躍ぶりを見てください。そして、そうした先輩たちに続こうと決心してください。